「私にもう一度 せめて声だけでも聞かせてください。
どんな前生の縁だったかわずかな間の関係であったが、
私はあなたに傾倒した。
それだのに私をこの世に捨てて置いて こんな悲しい目をあなたは見せる」
もう泣き声も惜しまずはばからぬ源氏だった。
【源氏物語 第4帖 夕顔より】
主人の尼の息子の僧が尊い声で経を読むのが聞こえてきた時に、
源氏はからだじゅうの涙がことごとく流れて出る気もした。
中へはいって見ると、灯をあちら向きに置いて、
遺骸との間に立てた屏風《びょうぶ》のこちらに
右近《うこん》は横になっていた。
どんなに侘《わび》しい気のすることだろうと源氏は同情して見た。
遺骸はまだ恐ろしいという気のしない物であった。
美しい顔をしていて、
まだ生きていた時の可憐さと少しも変わっていなかった。
「私にもう一度、せめて声だけでも聞かせてください。
どんな前生の縁だったかわずかな間の関係であったが、
私はあなたに傾倒した。
それだのに私をこの世に捨てて置いて、
こんな悲しい目をあなたは見せる」
もう泣き声も惜しまずはばからぬ源氏だった。
僧たちもだれとはわからぬながら、
死者に断ちがたい愛着を持つらしい男の出現を見て、
皆涙をこぼした。
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